ベスト16の結果に寄せて:『宿澤広朗 勝つことのみが善である 全戦全勝の哲学』永田洋光

学生時代は2年連続日本一を経験。日本代表監督として、スコットランドから大金星、またW杯では初勝利を挙げる一方で、世界と渡り合い、重役に登りつめたメガバンク屈指の凄腕バンカー。ラグビーも仕事も超一流。2006年、惜しくも急逝した男の「全戦全勝の哲学」に迫る。ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作。

サッカーワールドカップを見ているうちに、今年の3月に読んだこの本を思い出した。刺激的なタイトル「勝つことのみが善である」である。ラグビー日本代表ラグビー日本代表監督、そして、三井住友銀行専務取締役。しかも、銀行でもラグビー枠で出世したのではなく、正々堂々の二足のわらじを履いて、登りつめてきた。

「勝つことのみが善である」この言葉だけをそのままの意味で受け取ると、「負けは悪である。勝たなければ意味が無い」という風に読むことができる。しかし、この真意は

勝てば官軍といった結果だけを重んじる考え方とも根本的に違う。
勝てば官軍敵考え方の背景にあるのは、プロセスの如何を問わず「勝った」という結果だけを良しとする、いわば”結果オーライ”の発想である。しかし、宿澤が言う「勝つこと」には、そこに至るプロセスが重要なファクターとして含まれる。極端に言えば、「やるべきことを最後までやらず」「運」だけに頼って勝っても、宿澤の中では勝ったことにはならないのではないか。

ということであり、宿澤さんが人生において、一切の妥協をせず、勝つため(目標を達成するため)にやるべきことを全てやってきた、ということなのだと思う。


さて、サッカー日本代表(監督、選手、協会含め)がベスト4を達成するためにやるべきことを全てやってきたのか、というと私は懐疑心を抱かずにはいられない。まず、一つ、結果を座標として捉えるのであれば、ベスト4を達成していない。そしてもう一つ、ベスト16という結果に対して、満足している選手が多くはないだろうか。

一つめに関しては、何もいうことはあるまい。ベスト4を終着点としてやってきた日本代表がベスト16でパラグアイに敗れた、これは勝つための準備ができていなかった、ということだ。ベスト4に進めるだけの実力がついてきていなかった。もっと言えば、ワールドカップ前の戦略や布陣の方向転換を考えると、ベスト16に進めたのも運であり、宿澤さん的に言うと「勝ったことにならない」のかもしれないと思う。しかし、この部分に関しては、岡田監督が語るのを待つしかなかろう。最終的な布陣は、これまでの積み重ねからできたもの、以前より考えていたことなのかどうかを。


二つめに関して、ベスト16の結果の意味するところはなんだろうか。私はそれは、組織の力で勝ち取った結果である、と思う。日本代表の選手たちは世界のレベルを実感した、それは、ひょっとしたら「個の能力に差があっても、組織の力で互角に戦える」ということではないだろうか。結果から見ると、その実感は正しいのかもしれないが、その実感の限界がベスト16なのではないだろうか。引き分けPK戦敗退となってしまったことで、見えなくなってしまった個人の能力の差、この部分をしっかり抑えなければ、次回のワールドカップはない。海外移籍に動く選手が、長友、川島、(阿部、遠藤)だけでは足りない。岡崎、田中、再チャレンジの大久保にも期待したいところだ。「組織力で通用した」というのは、満足するところではないです。
二つめに関して、もう一つ付け加えるのであれば、PKを外したという事実に関しては、駒野はもっと責められるべき。ベスト16で敗退した責任は、監督含め日本代表全てにある。しかし、PKを外したことに関しての責任は駒野にある。例えば、コンペで提案をするとしよう。役割分担で、PK戦と同じように5人で発表することになった。しかし、そのうちの一人が大ポカをし、不採用となった。内容にもよるけれど、大ポカをした張本人は、責められるべきです。本当にベスト4を目指していたのであれば、駒野ふざけるな、です。


今回の教訓をもとに協会、監督、選手たちが日本サッカーをさらに面白くしてくれることを願っています。

読書メモ

準備は順調に進んでいた。
宿澤は、こんな言葉で当時を振り返った。
スコットランドに勝つ確率は、おそらく2割か3割。でもゼロではなかった。これがゼロだったら話は違うけど、2割か3割ある勝つ可能性を、戦略・戦術・情報を駆使して5割に高めることは可能なんです。5割まで高めれば、勝つチャンスが広がって、これはもう”勝てる”ということができる。そんな前提で、可能性を高めることを一所懸命やってスコットランド戦に臨みましたね。選手たちは”勝て”と言われても、どう攻めて、どう守って勝つのか、根拠が欲しいわけです。それを示してあげれば、試合のなかで展開がそのとおりになったときにかなりの力を発揮できる」

宿澤は、ラグビーでそうだったように、銀行においても、与えられたチャンスに「やれるだけのことはすべてやり尽くすぐらい」打ち込んで結果を出したからこそ、名を知られる存在になったのである。
そこには「強運」よりも「意志」の力を感じる。