「あなたはクビです」と言うだけの簡単なお仕事です

簡単・・・そんなわけない。

主人公の村上真介の仕事はリストラ面接請負人。要はクビ勧告の仕事。
不景気の中、人件費などの問題から一つの事業部を潰さなければならない状態に陥った企業が、自分たちの手では下せないクビ勧告を一途に請け負うのが主人公のつとめる日本ヒューマンリアクト(株)。「そのクビ勧告は自分たちでやれよ」というツッコミはおいておいて、彼らの仕事も結構エグイ。一日に何人という面接を割り当てられ、クビ勧告をひたすらするのである。担当した面接のうち、何人を円満に辞職させることができたかというノルマもある。キレられたり、泣かれたり、その個人の後ろにある家族の顔が浮かんだり、同情の余地もない人もいる、そんな人間模様。


この小説はただ物語を楽しむだけでなく、じっくり自分に置き換えて読めば、端々から現代サラリーマンへのメッセージを感じることができるだろう。
どのような社員がリストラ対象となるのか、仕事と作業の区別、会社への一個人の貢献利益、現実への甘え、組織の不合理さ、自分のやりたい仕事に就くことへの大切さ、プロの仕事とは何か、仕事とプライベートの在り方とは、相手への共感性・・・。


以下は、銀行合併の派閥争いに敗れ閑職に飛ばされた優秀な銀行マンを村上が説得するシーン。

池田(銀行マン):
「ですが総体としてみれば、世の中では自分の納得できない仕事に就いている人のほうが明らかに多いのではないのですか。それでも我慢できることは我慢して、日々を送っている。そういうのも勤め人の在り方だと思うのですが」


すると村上は薄く笑い、
「失礼ですが、だれも一般論など聞いてはいませんよ」そう、さらりと返してきた。


「口幅ったいようですが、そんな考えは個人として大事な判断をする局面では、何の役にも立たないでしょう。私が聞いているのは、世間がどうかではなく、池田さん、あなた自身が自分の現状についてどう思われているか、ということです。問題をすり替えるのは、やめにしませんか」
確かにそうだ。今度こそ恥ずかしさに顔から火が出そうになった。・・・・・・おれは今、誤魔化した。

この後、池田は村上のリストラ勧告を受け入れ企業再生ファンドに転身することになる。それは、池田の好きな仕事である。

仕事は仕事

仕事は仕事であって、人生ではない。「24時間仕事バカ」なんて言葉があるけれどそれは個人的には同意できない。仕事は人生の一部。
ただ、どうせ一部ならそこから多くのものを得て、多くの友人を得て、もちろん多くの収入も得て、自分に取り込みたい。そして自分に取り込んだものを、自分のフィルターを通して伝えていきたい、社会に還元したい。

この本を読んで、個人的に考えたのは「仕事人と会社人は全く違うものだぞ」ということ。もちろん、小説内にエピソードは一つもない。
そう、「いつのまにか、給料をもらう人になっていませんか?」