世界のオザワの「おしえてください」

今日、小澤征爾の『ボクの音楽武者修行』を読んだ。小澤征爾の変人さ、が詰まった名著である。

全く知らなかったものを知る、見る、ということは、実に妙な感じがするもので、ぼくはそのたびにシリと背中の間がゾクゾクしちまう。

神戸を出発してから四日目に、最初の外国であるフィリピンのエスタンシヤという島が見えた。その時はぼくの体はゾクゾクとふるえ出し、なんともいえぬ感激を味わった。このゾクゾクしたふるえのような感激はその後も何度か経験した。
大人になるということは、たび重なる経験のために次第にこうした体のふるえるような新鮮な感激がうすれ、少なくなることだそうだが、もしそれが本当なら淋しいことだと思う。

わたしが思ったことを書く。
小澤征爾この人は非常に謙虚である。非常に貪欲である。音楽に対して、音楽への探求心に関して非常に貪欲である。この本の中で一番多く出てくる言葉は何であろうか。もちろん数えているわけではないので定かではないが、おそらく

「おしえてください」

である。世界の巨匠に物怖じしない、躊躇わない。「弟子にしてください」ヨーロッパの指揮者のコンクールで金賞を取った後も決して偉ぶらない。謙虚でいて、かつ音楽に対して貪欲で、自分を下げることができる人である。

よく考えてみれば全てのものごとは「おしえてください」からなのだ。自分にはできない、自分には才能がない、、、自分を否定する言葉はいくらでも見つかる。他人と比べて、自分ができないことは確かにたくさんあるかもしれない。それらの全てを実は、自分がやり方をしらないだけなんだと考えてみればどうだろう。「やり方は知らないけど、教わればできる」だからこそ、「おしえてください」。
ぼくは英語がしゃべれないし、もちろん中国語もしゃべれない。でも、おしえてください。しゃべれるようになるまで頑張るのでおしえてください。ぼくはプログラミングができないけど、頑張るのでおしえてください。弟子にしてください。

有名になんかならなくていい。ぼくはまだ知らない世界を知りたい。ぼくにはできないことがいっぱいある。だから、おしえてください。

「セイジ、お前は幸福な奴だ。こんな美しい国で育ったなんて……。それなのになんでニューヨークなどに住む気になったんだい?」
ぼくも日本を美しいと思わないわけではない。ただ西洋の音楽を知りたくて飛び出して行ったのだ。その結果、西洋の音楽のよさを知り、また日本の美しさも知るようになった。ぼくはけっして無駄ではなかったと思っている。それどころか、今後も日本の若者がどしどし外国へ行って新しい知識を得、また反省する機会を得てもらいたいと思っている。