好き好き大好き超愛してる。

読みづらいことこの上なし。しかし、良かった。
特にこの部分。長いですが引用。これを見てみんな買うべし!!!!!!

ただし、この本じゃ芥川賞は取れないような気がするよ・・・

僕は智依子の手を取り、頼む。
智依子、頑張って手術受けてくれ、身体、痛いだろうけど、何とか我慢して、頑張って手術受けてください、と僕は言う。
これまでも手術前に頑張れとか僕は言ってきた。
でもその頑張れはできるだけ無事に、元の姿に戻れるような形で手術が終わるといいと言う気持ちが下敷きになっていた。

でも今度の頑張れと言うのは積極的に自分の身体を傷つけ、損ない、そしてかなりの部分を失うことを積極的に受け止め、諦めてほしいという懇願だった。
腕くらいなくなってもいいや、と僕は智依子に思って欲しかった。
身体がぼろぼろになって凄い痛いくらい我慢しようと思って欲しかった。
智依子にそんなこと一度も言ったことないしそんなふうに思ってるそぶりを見せたこともなかったが、僕はきれいな身体い続けることを優先して、自分の死の近付くのを許すなよ、と思う。
腕や足がなくなるなら死ぬほうがマシとか思うなよ、と思う。
智依子の細い白い長い腕を握る僕の手を、智依子は振り払う。

嫌い、と僕に言う。
巧也、私の手術、他人事んなってるよ?
私が痛いってこととか、辛いってこととか無視してる、分かってない、
前は分かってたのに、もう分かってない、嫌い、そんな人彼氏じゃなくていい、私のこと思ってくれないんだったらもう付き合ってる意味なくない?
ねえそうでしょ?

違うよ、と僕は言う。
違う、それ全然違う、おれ智依子のこともっとちゃんと考えてるから言ってんだよ、ホント、俺はひたすら智依子のこと失いたくないんだよ、ホントただひたすらそれだけなんだよ、
俺、こんなこと智依子が言うとおり、他人事だから言えるのかも知れないけど、例えば、万が一、智依子が腕とかなくなったとしても、それでも命が助かればいいんだよ、智依子のこと変わらずに好きでいられるから。

巧也、私のこと考えてない、と智依子は言う。
それ結局琢也の気持ちの話でしょ?琢也が私にどうしてほしいかって話でしょ?だからそれが他人事で嫌なんだって、
私、あのね、私の腕とか、例えばなくなったとして、ひょっとしたら、それで私、私じゃなくなっちゃうかもよ?
腕がなくなる前となくなった後で、全然違った人になっちゃうかもよ?
私、こないだ手術して部屋に戻ってきて、目開けたとき、ふと思ったんだもん、
あー良かった私が私のままでって、

っていうことはつまり、私、変わる可能性があったんだよ、私全く別の人間になって、もう琢也のことも好きじゃなくなってたり、琢也のことすっかり忘れちゃってたりするかもしれないよ?
ホントだよ?
私、そういうことあると思った。

人の身体って、やっぱり形も大事なんだよ、身体の形が、人の、例えば性格とか、
もうそれこそアイデンティティというか、そういうものにくっついてて、離れられなかったりすることもあるんだと思う、
腕を切られて必ず人格と関っちゃうとは思わないけど、そういうことあると思う。

・・・僕には言うべき言葉が見つからない、
智依子の言う通りに人の形がその人の人格を決める要素になっているとすれば、少しずつASMAに食べられ、削られ、減っていき、変形していく智依子は、ゆっくりと別の女の子になってるのかもしれない。
いやひょっとして全ての人間は、新陳代謝をしながら形を変えていき、人格もそれと同時に変化していってるのかもしれない。
身体の成長と人格の成長が足並みを揃える理由も、人間の性格や感覚や、オーラが年を経て成長とともに肉体の形を変えていっているせいなのかもしれない。


舞城 王太郎 / 講談社
Amazonランキング:50613位
Amazonおすすめ度:
伝えられなかった愛と、残されたたくさんの愛
芥川賞とって欲しかった……
愛してるということ

好き好き大好き超愛してる!って言いたい。ちんけな言葉だって良いじゃないか。